百万遍大念珠繰り
百万遍大念珠繰り
百万遍大念珠繰り

百万遍(ひゃくまんべん)珠数(じゅず)繰(く)り

「百万遍(ひゃくまんべん)珠数(じゅず)繰(く)り」とは、「百万遍(ひゃくまんべん)念仏(ねんぶつ)」を修するためにお数珠(じゅず)を繰(く)ることです。

・「百万遍念仏」とは?
百万遍(ひゃくまんべん)念仏(ねんぶつ)とは、浄土往生・先亡追善・攘災(じょうさい)招福などのために、阿弥陀仏(あみだぶつ)のお名号(みょうごう)を100万回お称(とな)えすることです。これに一人が7日あるいは10日間に100万回お念仏を称えることと、10人またはそれ以上の人が合唱したお念仏の総計を100万とするものの二種があります。初めを如法(にょほう)真(しん)修(しゅ)の念仏、あとを略法(りゃくほう)早(そう)(草)修(しゅ)といい、お数珠(じゅず)の用い方によって夥頭(つぶつぶぐり)ならびに早繰(ざらざらぐり)ともいいます。
お念仏を100万回お称えすることによって得る功徳を説いたものに『木槵子経(もくげんしきょう)』があります。この経典のお念仏は三宝(さんぼう)(仏・法・僧)の名を称えることですが、中国では阿弥陀仏の名を称えるお念仏によって極楽往生を願いました。日本でも平安中期以降、お念仏の数量信仰が盛んとなりました。しかし、一人が日数をかけて100万回のお念仏をお称えすることは「百万遍の苦行」といわれるほど困難な行であるために、数人が合唱するお念仏の総計をもって100万とし、その功徳を互いに融通(ゆうずう)する信仰によって、略法早修の百万遍が考えられました。それ以来、念仏信仰の一般化にともなってひろく民衆の間で行なわれました。
浄土宗の大本山の一つである京都の知恩寺(ちおんじ)は、元弘元年(1331)、後醍醐(ごだいご)天皇の勅によって疫病(えきびょう)を鎮(しず)めるために当寺第八世善阿(ぜんあ)空円(1253‐1332)上人が一七(いちしち)日を期として百万遍念仏を行なったところ、悪疫は止み、その功により「百万遍」の寺号を賜わりました。それ以来、浄土宗では広く百万遍念仏は行われています。
略法早修とは1080珠(顆(か))の大念珠を十人が繰り、一珠(顆)を送るごとにお念仏を一唱し、100回大念珠を回すことにより、一人の称えるお念仏は約10万回ですが、十人の合唱する総計は100万となり、おたがいのお念仏の功徳が融通して百万のお念仏の功徳を受けることができるというものです。
如法真修は実際においては数を求めるのは大変だったので、法然上人に帰依した高野の明遍(みょうへん)(1142‐1224)は、木に数珠をかけ振り回しながらお念仏したということから、「明遍のふりふり百万遍」と当時の人は呼んだそうです。また浄土宗総本山、京都の知恩院(ちおんいん)第五十六世の教意(きょうい)(1700‐1771)上人は、天井に釣瓶(つるべ)の輪を取り付けその輪に大念珠をかけ、手繰(たぐ)って百万遍を修したということです。
浄土宗(じょうどしゅう)をお開きになった法然(ほうねん)上人(しょうにん)(1133‐1212)は、百万遍念仏について、『往生浄土用心消息』に、

一。百万遍の事、仏の願にては候はねども、小阿弥陀経に、若(もしは)一日、若(もしは)二日、乃至(ないし)七日念仏申人、極楽に生ずると説れて候へば、七日念仏申べきにて候。その七日の程の数は、百万遍に当り候よし、人師釈して候へば、百万遍は七日申べきにて候へども、堪へ候はざらん人は、八日九日などにも申され候へかし。さればとて、百万遍申さざらん人の生まるまじきにては候はず、一念十念にても生まれ候なり。一念十念にても生まれ候ほどの念仏と思ひ候うれしさに、百万遍の功徳を重ぬるにて候なり。

往生浄土用心消息 - 法然上人(1133‐1212)

とおっしゃっています。つまり、法然上人の専修念仏(せんじゅねんぶつ)の教えからいえば、一念十念で往生できるお念仏であることを喜んで、百万遍申して功徳を重ねるべきであるとされています。
また、『一百四十五箇条問答』には、

一。念仏の百万遍、百度申して必ず往生すと申して候に、命みじかくしてはいかがし候べき。答。これもひが事に候。百度申してもし候、十念申してもし候、又一念にてもし候。

一百四十五箇条問答 - 法然上人(1133‐1212)

とあります。
 浄土宗の教えは、上は一形(いちぎょう)(一生涯)から下は一念(いちねん)(一回のお念仏)のお念仏です。これは、一念でも往生できると信じて一生涯お念仏を続けなさいということなのです。百万回お念仏をお称えすることができれば結構なことですが、お念仏の数よりも続けることが大事なのです。「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」とお称えするお念仏は、何時(いつ)でも何処(どこ)でも誰(だれ)でも修すことができる易行(いぎょう)(容易にできる修行法)であり、阿弥陀様により選択(せんちゃく)(選ぶこと)された勝行(しょうぎょう)(勝(すぐ)れた行)です。
ですから、お寺にお参りの際にはまず本堂の前にある百万遍吊り大数珠の前で、数に関係なく「なむあみだぶ」とお念仏をお称えしながら大数珠をゆっくり手前に手繰ってお回しください。